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COLUMN

【和尚の問わず語り】vol.1/12「今を精一杯に」

2020.10.15

東京の国立劇場の正面にある六代目尾上菊五郎さんの木彫の鏡獅子を彫られた彫刻家の平櫛田中さんは、この代表作である鏡獅子の完成に二十二年の歳月を費やしました。

この鏡獅子にはこんなエピソードがあります。ある日のこと菊五郎さんと会食しているとき、突然平櫛翁は「彫刻するのに、あなたの骨格やら肉付きをしっかりとらえたいので、すまんがここで裸になって下さい」とたのみました。菊五郎さんは、最初「なんて失礼なことを言う人だ」とムッときましたが、稀代の彫刻家のただならぬ迫力を感じ「わかりました」と言うやいなや、立ち上がりふんどし一本の姿になったと言う話が残っています。

この二十二年の歳月をかけた作品を、政府は二億円で買い上げようとしたのですが、平櫛翁はお金に代えては亡き六代目に申し訳ないとして、近代美術館に寄贈されたのでした。

平櫛翁の老後の日記に「まだまだ苦心苦心苦心」という記述があります。そして平櫛翁が九十五歳のとき岡山県井原小学校に寄贈された額には、「いまやらねばいつできる  わしがやらねばだれがやる・・」と書いてありました。老いてのちも、なお「まだまだ苦心苦心苦心」と言う言葉を日記につけるその心、そして平櫛翁の”今を精一杯に”生きるその姿、生きざまに感動をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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プロフィール
住職 長峰広道
昭和34年8月24日に新庄市に生まれました。駒澤大学仏教学部禅学科を卒業後、福井県にある大本山 永平寺や横浜の總持寺での修行を経て、平成11年から20年間、福田院の住職をしています。
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