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COLUMN

【和尚の問わず語り】vol.1/6 『よき香りの人』

2020.03.17

あなたはご存知ですか?

人間の癖の90%以上が毎日の習慣だということを。

私たちは癖を生まれながらだと思っていますが

そうでは無いようです。

人は誰でも色々な癖や

欠点を持っているものです。

今皆さんの周りに面と向かって注意してくれる人

叱ってくれる人はいますか。

そのような人がいたら感謝すべきだと思います。

何故なら世間の多くはそれをただ黙って見過ごし

陰で笑っていることの方が多いからです。

 

                                                            能登 總持寺祖院伝燈院(御開山霊廟)

 

ある日お釈迦さまが弟子のアナンと

街を歩いていた時のことです。

道端に一枚の紙切れが落ちていました。

お釈迦さまはアナンにその紙切れを

拾うように命じました。

また少し歩くと今度は縄が落ちていました。

お釈迦さまはまたその縄をアナンに拾わせました。

しばらくしてお釈迦さまはアナンに

「何か気づいたことはないか」と尋ねました。

アナンが言いました。

「別に変ったことは無いのですが

ただ紙切れには何も包まれていないのに

とても良い香りがしますし

縄の方はとても嫌な匂いがします」と。

 

お釈迦さまは続けて尋ねました。

「それはどうしてだろうか」

 

アナンが答えました。

「きっと紙にはなにかいい匂いのものが包んであり

縄の方にはとても嫌な匂いのするものが

縛ってあったのだと思います」

 

お釈迦さまはアナンに言われた

「紙は香りの良いものを包んであったので

いつの間にかその匂いが紙にうつり

紙そのものもよい香りを放つようになったのです。

縄の方も嫌な匂いのものを縛っていたから

いつの間にか嫌な匂いがしみ込んでしまったのです。

 

アナンよ、よき香りとはよき教えのことだ。

そのよき教えを聞き

そのよき教えと共に暮らすならば

いつの間にか生きることを喜び

感謝できる人間になっていくことだろう」

と言われ

お釈迦さまは静かに歩きだされたのです。

 

いいことばかりを言いお世辞を使い

裏では何を言っているか

わからないような人も多い世の中ですが

本当に心から叱ってくれる

親身になって苦言をはいてくれるような人こそ

よき人といえるのではないかと思います。

 

自分もそんな人の側にいると

知らず知らずのうちによき人になっていく

「霧の中を歩くと知らない間に着物がしっとりするように」

やさしい人に親しんでいると気が付かないうちに

自分もやさしい人になっていくのではないでしょうか。

 

あなたを心から叱り励ましてくれる人を大切にし

そんな良き香りのする人に親しんでいきたいものです。

プロフィール
住職 長峰広道
昭和34年8月24日に新庄市に生まれました。駒澤大学仏教学部禅学科を卒業後、福井県にある大本山 永平寺や横浜の總持寺での修行を経て、平成11年から20年間、福田院の住職をしています。
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